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福岡地方裁判所小倉支部 昭和48年(わ)424号 判決 1975年3月26日

被告人 相良真一 外三名

主文

被告人相良真一および被告人本石栄二をそれぞれ無期懲役刑に、被告人本石五生を懲役一五年に、被告人重藤勝正を懲役一〇年に各処する。

被告人本石五生および被告人重藤勝正に対し、未決勾留日数中各五〇〇日を、それぞれその刑に算入する。

押収してある黒色ビニール製手提鞄一個(昭和四九年押第三号の八)は被害者榎本一郎に、黒皮ケース入りカメラ一台(同号の一三)は被害者三塩武彦に、電子ライター一個(同号の一四)は被害者大羽裕治の相続人にそれぞれ還付する。

理由

(被告人らの経歴)

被告人相良真一は、採炭夫をしていた父光春、母ヒナコの長男として福岡県田川郡川崎町で生れ、昭和四一年三月同町立鷹峰中学校を卒業後、同郡添田町所在の自動車整備工場に自動車整備工見習として勤め、その後整備士、ブルドーザー運転手として稼働し、昭和四七年一〇月頃から同郡川崎町所在の豊州自動車整備工場に整備士として勤務していたものであり、被告人本石栄二は、建築設計技士をしていた父昇、母妙子の次男として同郡川崎町で生れ、昭和四一年三月田川市立弓削田中学校を卒業後、福岡市所在の寿理化器製作所の工員として勤め、その後製靴工、ガラス店、衣料品店などの店員として稼働し、昭和四八年七月頃から田川市所在のメンズショップ美津美の店員として勤務していたものであり、被告人本石五生は、被告人本石栄二の実弟で、父昇、母妙子の三男として同郡川崎町で生れ、昭和四五年三月田川市立弓削田中学校を卒業後、神戸市所在の製靴業加藤商店の店員として勤め、その後工員、トラック運転助手として稼働し、昭和四八年六月頃から福岡市所在の運輸会社のトラック運転助手として勤務していたものであり、被告人重藤勝正は、タイル工業所の工員をしていた父進、母ツタ子の次男として同郡川崎町で生れ、昭和四四年三月同町立川崎中学校を卒業後、地元の文具店の店員として勤務するとともに県立西田川高校定時制に在学していたものである。

(罪となるべき事実)

第一  (一) 被告人相良真一は、堀之内薫と共謀のうえ、昭和四八年八月九日午前一時頃、北九州市小倉北区中津口一丁目八番二五号岩崎書店前路上において、同所を通行中の津川桂子から同人所有にかかる現金約八〇〇円および化粧品在中の化粧バッグ(時価合計約二、〇〇〇円相当)をひつたくつて窃取し、

(二) 被告人相良真一、被告人本石栄二、被告人本石五生は、堀之内薫と共謀のうえ、昭和四八年八月一三日午前二時頃、田川市上本町九番三〇号前田富喜代方横空地に駐車中の普通乗用自動車(岡五五そ五三一四号)内から、野村義男所有にかかるカーステレオパック八個、同ケース一個、懐中電灯一個(時価合計約一三、五〇〇円相当)および野村康野所有にかかる自動車運転免許証一通、同黒色免許証ケース一個、写真二枚を窃取し、

(三) 被告人相良真一、被告人本石栄二、被告人本石五生は、堀之内薫と共謀のうえ、昭和四八年八月一三日午前二時二〇分頃、田川市上本町一〇番一三号西本町職員住宅前路上において、吉野寛所有にかかるシートカバーおよび楠本種雄所有にかかる普通乗用自動車(福岡五五ま二二九九号)一台(時価約二〇〇、〇〇〇円相当)を窃取し、

(四) 被告人相良真一、被告人本石栄二、被告人本石五生、被告人重藤勝正は、共謀のうえ、昭和四八年八月二〇日午前一時頃、田川市千代町一番五号田川簡易裁判所前路上において、後藤季彦所有にかかる普通乗用自動車(北九州五五に九九〇八号)一台(時価約一四〇、〇〇〇円相当)を窃取し、

(五) 被告人相良真一、被告人本石栄二、被告人本石五生、被告人重藤勝正は、共謀のうえ、昭和四八年八月二〇日午前三時頃、北九州市小倉北区下富野三丁目新設道路ガード下路上において、紫苑タクシー有限会社所有にかかる普通乗用自動車(ニッサンブルーバード、北九州五五に一〇三〇号)一台(時価約一〇〇、〇〇〇円相当)を窃取し、

(六) 被告人本石栄二、被告人重藤勝正は、共謀のうえ、昭和四八年八月二二日午前四時三〇分頃、大分県宇佐市大字住ノ江三一一の二番地竹下石油ガソリンスタンドにおいて、池田義雄所有にかかる普通貨物自動車(大分四の三一三一号)一台(時価約一二〇、〇〇〇円相当)を窃取し、

第二  被告人相良真一、被告人本石栄二、被告人本石五生は、堀之内薫と共謀のうえ、金品を強取しようと企て、昭和四八年八月一三日午前三時三五分頃、豊前市大字四郎丸六六九番地の二築村石油店広山給油所において、被告人相良真一が所携の果物ナイフを同店従業員榎本一郎(当時六六年)の胸元に突きつけ、「冗談じやないんだぞ。静かにしろ。」などと申し向けて脅迫し、被告人相良真一および堀之内薫がこもごも同人の顔面腹部などを数回殴打したうえ、被告人本石栄二および堀之内薫が同人の両手足を所携の麻ひも(昭和四九年押第三号の一)、ガムテープ(同号の二および三)、日本タオル(同号の七)などで縛りあげるなどしてその反抗を抑圧し、被告人本石五生が同店経営者築村ミネ所有にかかる現金五七、〇〇〇円位、サングラス七個位、手袋二双位(時価合計約二一、四〇〇円相当)および榎本一郎所有にかかる即席ラーメン二個など在中の黒色ビニール製手提鞄一個(同号の八、時価合計約六〇〇円相当)を強取し、その際前記暴行により榎本一郎に対し治療約二週間を要する全身打撲症、鼻出血、左結膜下出血の傷害を負わせ、

第三  被告人相良真一、被告人本石栄二、被告人本石五生、被告人重藤勝正は、前記第一の(五)記載の犯行後、窃取にかかる普通乗用自動車(ニッサンブルーバード)を運転して強窃盗に入るに適したガソリンスタンドなどを物色しながら行橋市、豊前市、宇佐市などを徘徊していたが、被告人四名は、共謀のうえ、右ニッサンブルーバードにかわる自動車を強取しようと考え、その方法として右運転車両が川原に落ちて故障したように装い通行中の自動車を止め牽引方を依頼して川原に誘い込み隙をみて運転手を縛りあげ自動車を強取しようと企て、昭和四八年八月二〇日午前六時頃、福岡県京都郡犀川町大字大村字尾首田一二一九番地先添田行橋線県道上において、折から普通乗用自動車(トヨタカローラ、北九州五五ね三〇九三号)を運転して出勤途中の大羽裕治(当時二一年)を呼びとめ、被告人四名はこもごも「車が川にはまつて動けないので引つ張つて下さい。」などと申し向け、被告人相良真一があらかじめ右県道沿い通称今川の川原に乗り入れて車輪を水没させていた右ニッサンブルーバード方向へ同人をして右トヨタカローラを運転させ同人を今川川原に誘い込み、同川原において、被告人本石栄二、被告人相良真一、被告人本石五生が交互に刃渡り約一〇糎の果物ナイフを示して、こもごも「おとなしくせい。」「静かにしたら命までとらん。」などと申し向けて脅迫し、次いで被告人四名共同して同人を同所草叢に押えつけ、所携の麻ひもをもつて同人の両手を後手にして両足首ともども緊縛し、所携の日本タオルをもつて同人に猿ぐつわをはめ目隠しをするなどして同人の反抗を抑圧し、同人所有の現金七、五〇〇円位および腕時計一個(昭和四九年押第三号の一一)、ライター一個(同号の一四)、前記トヨタカロラ一台(時価合計七二三、八〇〇円相当)ならびに同人管理にかかる三塩武彦所有の黒皮ケース入りカメラ一台(同号の一三、時価一〇、〇〇〇円相当)を強取したうえ、被告人四名は犯跡を隠蔽するため大羽裕治を被告人らの運転していた前記ニッサンブルーバードのトランクに押し込み同所に同車を放置して前記強取にかかるトヨタカローラに乗り込み逃走をはじめたが、右犯行をより確実に隠蔽するため大羽裕治を英彦山山中に打ち棄てようと相謀り、前記犯行現場(以下第一現場という。)から東北約一・二粁位進行した地点から再度第一現場に引き返し、被告人重藤勝正が大羽裕治の拘禁された右ニッサンブルーバードを運転し、被告人相良真一が強取にかかる右トヨタカローラを運転して英彦山に向つたが、第一現場から約二六・五粁はなれた福岡県田川郡添田町字英彦山二番地の一国有林七一林班い―小班先山口林道上に至り右ニッサンブルーバードが路肩に落ちて停車した際(以下第二現場という。)、被告人四名は、大羽裕治の処理について種々話合つたすえ、前記犯行を隠蔽するためにむしろ同山中において右大羽を殺害しようと協議一決し、被告人四名共同して同人を右ニッサンブルーバードトランクから右トヨタカローラトランクに移し替え、被告人相良真一が右トヨタカローラを運転して第二現場から約二・五粁はなれた同国有林七二林班ほ―小班先甘木豊前線県道鷹巣トンネル附近(以下第三現場という。)に至り、同日午前八時頃、同所において被告人四名は共同して右トヨタカローラトランクから半ば失神状態にあつた大羽裕治を抱え出したうえ、道路端ガードレール越に同所国有林崖下へはずみをつけて投げ落し、同人の身体が草藪にひつかかるや、被告人本石栄二が足で約三米位の深さのある崖下まで蹴落し、次いで被告人本石栄二および被告人相良真一が同人の身体を引きずつて、被告人重藤勝正および被告人本石五生が見つけ出した窪みに引き入れ、同所において、両手を後手に縛られ目隠しと猿ぐつわをされたまままだ呼吸をしている大羽裕治の身体の上に人頭大位あるいはこの二、三倍位ある石塊、枯葉等を乗せて埋め、その際猿ぐつわがはずれて同人が「助けてくれ。」と哀願するや被告人相良真一が同人の口中に草等を詰め込み、被告人本石五生が所携の麻繩を大羽裕治の頸部に巻きつけて絞めあげ、さらに被告人相良真一、被告人本石栄二、被告人本石五生、被告人重藤勝正が二人宛二組に分かれそれぞれ同人の頸部に巻かれた麻繩の両端を引つ張つて絞めあげ、さらにこもごも石塊を同人の顔面頭部に投げつけて同人を埋め尽し、よつて即時同所において同人を窒息死するに至らしめて殺害した

ものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人らの主張に対する判断)

弁護人らは、被告人らの判示第三の所為につき強盗殺人罪の成立に必要な所謂強盗の機会という要件を欠くため強盗罪と殺人罪の併合罪を構成するにすぎない旨主張するのでこの点について判断するに、前記認定のとおり、被告人らは第一現場において自動車ならびに金品を強取したうえ、同所から自動車のトランクに被害者を拘禁して約二九粁離れた第三現場に至り、同所において被害者を殺害したもので、かつ強取行為から殺人行為までの所要時間が約二時間であつたことからすれば、場所的にも時間的にも多少の距離間隔があるけれども、本件殺人行為は強盗の犯跡を隠蔽する意図のもとに強取行為に継続して同一の被害者に対してなされたものであり、また、強盗とは別の機会に新たな意図に基づいてなされた別個独立の行為と認めるに足りる事情も存しない。もつとも、前記認定のとおり、被告人らは第一現場において強取行為を完了後、犯跡隠蔽の方法としてブルーバードのトランクに被害者を押し込み現場に放置したまま、強取にかかるカローラを運転して一旦同所から約一・二粁位離れた地点まで赴き、その後再び現場に引き返してから被害者を第三現場まで運搬しているのであるが、右現場離脱の時間は約一、二分位のきわめて短時間であり、また引き返した意図が犯跡隠蔽の方法を変更するためのものであつたことを考えれば、右事実をもつて強取行為との継続性が失なわれたり、強盗とは別個独立の機会が設定されたと認めることもできない。結局被告人らの本件行為は全体として刑法二四〇条後段所定の結合罪に該当すると認めるのが相当である。よつてこの点についての弁護人らの主張は採用しない。

(法令の適用)

被告人相良真一の判示第一の(一)乃至(五)の各所為はいずれも刑法六〇条二三五条に、判示第二の所為は同法六〇条二四〇条前段に、判示第三の所為は同法六〇条二四〇条後段に各該当するが、所定刑中、判示第二の罪につき有期懲役刑を、判示第三の罪につき無期懲役刑を各選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるところ判示第三の強盗殺人罪につき無期懲役刑を選択したので、同法四六条二項本文により他の刑を科さないで被告人相良真一を無期懲役刑に処し、被告人本石栄二の判示第一の(二)乃至(六)の各所為はいずれも刑法六〇条二三五条に、判示第二の所為は同法六〇条二四〇条前段に、判示第三の所為は同法六〇条二四〇条後段に各該当するが、所定刑中、判示第二の罪につき有期懲役刑を、判示第三の罪につき無期懲役刑を各選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるところ判示第三の強盗殺人罪につき無期懲役刑を選択したので同法四六条二項本文により他の刑を科さないで被告人本石栄二を無期懲役刑に処し、被告人本石五生の判示第一の(二)乃至(五)の各所為はいずれも刑法六〇条二三五条に、判示第二の所為は同法六〇条二四〇条前段に、判示第三の所為は同法六〇条二四〇条後段に各該当するが、所定刑中、判示第二の罪につき有期懲役刑を、判示第三の罪につき無期懲役刑を各選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるところ判示第三の強盗殺人罪につき無期懲役刑を選択したので同法四六条二項本文により他の刑を科さず、なお情状により同法六六条七一条六八条二号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で、被告人本石五生を懲役一五年に処し、同法二一条により未決勾留日数中五〇〇日を右刑に算入することとし、被告人重藤勝正の判示第一の(四)乃至(六)の各所為はいずれも刑法六〇条二三五条に、判示第三の所為は同法六〇条二四〇条後段に該当するが、判示第三の罪につき所定刑中無期懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるところ判示第三の強盗殺人罪につき無期懲役刑を選刑したので同法四六条二項本文により他の刑を科さず、なお情状により同法六六条七一条六八条二号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で、被告人重藤勝正を懲役一〇に処し、同法二一条により未決勾留日数中五〇〇日を右刑に算入することとし、押収してある黒色ビニール製手提鞄一個(昭和四九年押第三号の八)は判示第二の罪の賍物で、黒皮ケース入りカメラ一台(同号の一三)および電子ライター一個(同号の一四)は判示第三の賍物であり、いずれも被害者に還付すべき理由が明らかであるから、刑事訴訟法三四七条一項により黒色ビニール製手提鞄一個を被害者榎本一郎に、黒色ケース入りカメラ一台を被害者三塩武彦に、電子ライター一個を被害者大羽裕治の相続人にそれぞれ還付することとし、被告人本石栄二および被告人本石五生について生じた訴訟費用は同法一八一条一項但書を適用して被告人らに負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件各犯行は、遊興費欲しさに、被告人相良真一と被告人本石栄二が主謀者となつて強窃盗を計画し、これに被告人本石五生、被告人重藤勝正が加功して敢行されたものであるが、きわめて計画的にして周到な準備のうえで実行されており、その動機において何一つとして同情すべきものがないばかりか、自己の金銭的欲望を充足するためには手段を選ばなかつた最も悪質な犯行である。また各犯行の態様はいずれも大胆かつ残忍なものであるが、とりわけ強盗殺人罪についてみるに、全く何の落度もない被害者に対しなしたる所業は、前記縷々判示したごとく、その行為の執拗なるは言うに及ばず人道を無視した惨虐極りないものであつて、この点においては何等情状酌量の余地はないものと言うの外はない。親切心をかけたばかりに殺害されるに至つた被害者の無念の程は察するに余りあるものがある。被害者は、昭和四五年豊津高校普通科を卒業後東陶機器株式会社に就職してまじめに勤務し、前途有為の青年であつたことに思いを致せば、被害者の家族に対しこの犯罪の残した傷痕は深くかつ大きく、心より同情の念を禁じえないものがある。加えて更には附近住民を恐怖に陥し入れた本件各犯行の社会的影響も無視しがたいものがある。そこで被告人らの刑を量定するにつき、被告人らの年齢、経歴、環境、前科前歴、犯行の動機、計画性、犯行の態様、犯行における各人の役割、地位、犯行後の行動、賍品の処分状況および本件に対する改悛の程度などを仔細に検討するとき、被告人相良真一および被告人本石栄二は主文掲記の無期懲役刑に処するを相当と認め、被告人本石五生および被告人重藤勝正については、右両名が本件各犯行時少年(被告人本石五生は当時一八年、被告人重藤勝正は当時一九年)であつたうえに、集団犯罪における集団心理の影響をきわめて強く受けていること、とりわけ、被告人重藤勝正には、前科前歴が全くないうえに、強盗傷人罪には加担しておらず、本件各犯行においても従属的地位において行動していることなどを特に考慮して、いずれも酌量減軽をしたうえ、被告人本石五生を懲役一五年に、被告人重藤勝正を懲役一〇年に処するを相当と考え主文のとおり量定した。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 永松昭次郎 岩井正子 大山隆司)

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